なぜ大学入試改革が導入されるのか?
見直された「育成すべき人材」
グローバル化が一層進み、情報化が一気に加速し社会が大きく変革をとげている21世紀は、知識基盤社会の時代といわれています。
このような現代社会の中で、マニュアルを高速に正確に再現するのは、人間ではなくデジタルテクノロジーの仕事になってきています。AIの発展により、人間の考える能力、知識力が、機械に代替されるものとなるとき、人はどんな能力を社会に還元していけるでしょうか?
人間存在が問われた今、日本でも少子化をはじめとした社会の流れを見すえて「育成すべき人材とは何か」をみすえた教育へ変わろうとしています。
思考力・主体性などがより求められるように
学校教育法では、「学力」を以下の3要素で定義しています。(第30条2項)
・基礎的・基本的な知識・技能
・知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力
・主体的に学習に取り組む態度
これまでの高度経済成長下の日本教育は、「知識・技能」の習得に力点を置き、それ以外の「思考力・判断力・表現力」や、「主体的に学習に取り組む態度」を軽視しがちでした。
しかし、現在進められている教育改革においては、学力の3要素をバランスよく育成することが求められています。
具体的には、
・2020年から小中高校の新しい学習指導要領が本格的にスタートすること
・大学入試制度が変わること
の2点です。今回の改革のポイントは、小中高校と大学が連動し、一体で改革が進んでいるところです。
これまでは高校の教育改革をしようとしても、大学入試が変わらないことには高校の学びは入試に引っ張られてしまい、逆に大学で入試を変えたいようなときにも、高校の学習指導要領に準じて入試を作成せねばなりませんでした。
それを同時に変えていける点で、明治以来の改革だといっても過言ではなく、少なくとも、共通一次試験の開始から、35年ぶりの本格的な改革であることは間違いないのです。
この記事では、皆さんに身近な「大学入試改革」についてその中身を詳しく見ていきます。
大学入試改革で何が変わるのか
大学入学共通テストの導入
文部科学省は、2020年度大学入試から、従来のセンター試験に替わって「大学入学共通テスト」を導入することを発表しています。
この新たなテストでは、思考力・判断力・表現力が中心に評価されます。また、各大学の個別試験でも、アドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)をより明確化するとともに、小論文やプレゼンテーションを通してより多面的な選抜方法にすることが求められています。これまで以上に多面的かつ総合的に受験生を評価する入試への転換を掲げているのです。
では具体的に、科目ごとに変革のポイントをお教えします!
英語
「読む」「聞く」に加え「書く」「話す」の4技能を評価
改革のポイントはずばり、民間試験の登用です。
リーディングとリスニングに限られていたセンター試験とは一変し、今後はライティングとスピーキングも課されるようになります。
スピーキング能力の評価にあたっては、実用英語技能検定やTOEFL、TOEICといった民間の検定試験の登用が決まっています。
どの試験が採用されるかは現時点で未発表ですが、受験生は受験年度の12月までに受けた試験結果を、2回分まで評価対象にすることができるようです。
そして、大学入試共通テストにも変化が加わります。
まず、「話す力」は民間の検定試験で評価する前提で、センター試験にみられた発音やアクセントを問う問題や、単純な文法問題は削除されます。
また、ウェブサイトやポスターから情報を読み取る、日常生活に関連した問題が中心になり、図表を読み取る力も問われます。そして、従来は日本語表記だった設問も英語になります。
グローバル人材の育成を目指して、「読む力」「聞く力」「書く力」「話す力」4技能とも身につけていることが重要視されていくのです。
国語
記述問題が登場、情報処理能力がカギ
これまで評論・小説・古文・漢文の大問4つで構成されていたセンター試験ですが、共通テストには記述問題だけで構成された大問1が加わり、全5問100分間の試験になります。
さらに、評論・物語・古文・漢文の4問においても、現実とのリンクが意識された資料・課題文が多く出題されるのも新たな特徴です。
全体を通して、資料や会話文などの多様な情報源から、問われている情報を適切に取り出す力が必要になってきます。
社会
大きな変化傾向はみられない
ほかの科目と比較すると、大きな変化傾向はみられないといえるでしょう。
しかし、これまでよりも資料を活用した出題が増えています。(例:登場人物の発言内容の正誤を問う問題)
従来通りある程度の基礎的な知識を備えることはもちろん、初見の資料を見て、知識を活用できる論理的思考力も求められます。よって、普段から知識と知識をつなげて記憶できていることが大切です。
数学・理科
日常の自然現象との関連を意識
数学では、単なる計算で数値を問うのではなく、数学的な記号や数の“意味”を問う問題が増加しています。
会話文が多用されるなど、全体の変化が強く出ているように見受けられます。
数IAでは記述問題が出され、試験時間が10分延長(70分)となります。
理科では、日常生活とのかかわりを意識した出題がされます。
単に公式を当てはめるのではなく、その逆で、日常に起こる自然現象を法則に当てはめるという視点が必要になってきます。
そのためには、暗記ではなく日ごろから根本の理解を深める勉強をするように心がけましょう。