
はじめに
私は京都大学工学部電気電子工学科を卒業したのですが、改めて振り返ってみた時に、すごくよかったと思える環境でした。
ところが、大学に合格してすぐ、先に京大に進学していた先輩からは次のように言われたのを覚えています。
「電電?それは大学生活おわたね」
“大学生活おわた”
これから大学生活を始めようというときに、一番聞きたくないセリフの一つです。
話を聞いてみると、電気電子工学科は京大内でもトップクラスの「ブラック学科」と言われているとのこと。中でも「電気電子工学実験」という必修科目は一日10時間も拘束された上、レポートもすさまじい分量が要求されるとか…。
実験が厳しく、友達より忙しくなる ↓ だんだん友だちと会う頻度が減ってくる ↓ 気づけば友達は電電ばかり…。
の連鎖が、まるでブラックホールのように多くの電気電子工学科新入生を吸い込むんだ、と先輩は教えてくれました。
楽しみでしかたなかった京大生活に、暗雲が立ち込めます。
では、本当に僕の京大生活は「電気電子工学科」に「終え」られてしまったのでしょうか。
結論から言えば、「電気電子工学科最高!」です。
少しばかり、昔話につきあっていただけると幸いです。
「学科は電電です!」 「あっ……。」
京大の多くのサークル・部活では、大学入学式前に「新歓(新入生歓迎会)」をやります。
新入生に早くからタッチし、部員を確保するためです。
僕も入学前から気になっていたバレーボールサークル、アーチェリー部などを見に行きました。
ほとんどのサークル・部活で、新歓説明会のあとにご飯に連れて行ってくれます。要は、「タダ飯食わせて接待して、部員にしよう!」というわけです。
京都は学生の街、安くて美味しいお店がたくさんあります。ゲンキンな僕はいそいそとついていきました。
店につくと、多くの場合「先輩2名、新入生2名」の配分で席が割り当てられます。
座席につくと始まるのは自己紹介。自己紹介では名前・出身地・出身高校・高校の部活、そして所属学科を言います。そう、所属学科を…。
サークルの先輩「君はどこから来たの〜?」 「C県から来ました、(僕の名字)です。学科は…電気電子工学科です」 「あっ……。」
このときの先輩の顔のくもりっぷりは、今でも忘れられません。
面白いのは、多くの電気電子工学科同期と
「俺たち、電電だっていうと必ず『あっ……。』って言われるよなwww」
と盛り上がることがよくあります。
そのくらい、イメージが悪い学科なのだ、と肩を落として帰りました。
「自然現象と数学(電気電子工学科)」との出会い
入学後、さっそく講義を受けることになります。
どれほど過酷なカリキュラムが始まるのか、びくびくしながら講義開始を迎えることになりました。
1回生向けの数少ない専門科目の一つが「自然現象と数学(電気電子工学科)」です。
この科目は高校数学・大学受験数学にどっぷりつかった1回生を、大学で要求されるような「自然現象を解き明かすための数学」に引きずり込むことを目的とした科目です。
この科目を受けて本当に驚いたのが、「先生の熱意が高い」こと。
信じられないくらい作り込まれたテキスト、相当の時間をかけて準備されたであろうスライド、なにをとっても「超熱血」。電気電子工学科の先生の熱意に、僕はあっというまに焼き焦がされてしまいました。
このサービス、本当に年56万円?
実際、2, 3, 4回生向けの講義のほとんどすべてが、「超熱血」で準備されています。
膨大な量の資料・文献をわかりやすく整理し、問題演習もよく練られた良問ばかりです。
しかも質問に行くと、30分も40分も時間をとってわかりやすく個別レクチャーしてくれます。世界レベルの超一流の研究者が、ですよ。
僕は大学入学以前、大学のセンセイというのは偉くてふんぞりかえっていて、「ガキのことなんか知らない」と言わんばかりに適当な講義をするんだと思っていました。テキストをぶつぶつ音読するだけ、テストは毎年使いまわし…。そういう光景を思い描いていました。
しかし、実際はまったく異なりました。
あとで研究室に配属されて気づいたことですが、電気電子工学科は1897年に発足し、京大の中でも最も古い学科の一つです。
先生方は皆、「京大電気系教室が日本の近代化を支えた」と信じて疑いません。研究だけでなく、教育で社会貢献しようという気概が強いのでしょう。
電気電子工学科のOB会・懇親会ではいつも乾杯の音頭で「京大電気系教室120年の歴史が…」のフレーズが出てきます。笑
京大の学費は年56万円、決して安くはありませんが、それ以上の価値が十分にある時間を過ごせます。
実験はやはり厳しい。でも…
電気電子工学科の実験は、2回生の後期から本格的に始まります。
やはり実験にかかる時間も長く、提出しなくてはならないレポートは本当に過酷でした。
前情報通り、「レポートがあるから友達と会えない」ことはしばしばありました。
だいたい、僕の場合電気電子工学科のレポートは1本10〜15時間程度で書き上げることができました。これを1週間で取り組まなくてはならない、しかも他の宿題等もあるので、レポートが課された週は毎晩勉強といった形になります。
ところが、レポートで苦しんだ時間はたしかに成長に繋がりました。
いま、私は電気電子工学科を卒業し、修士課程に在籍していますが、当時のレポートを見返すと、
「たかがこの程度にアレだけ時間がかかったの…?」
と思わざるを得ません。
苦しんだ思い出、やっとの思いでかきあげたものに満足した記憶は確かにあるのですが、その成果物はまったくのゴミ同然に見えます。
それだけ、成長のスピードが早い環境ということなのだと思います。
苦しみながら実験に取り組んだ分野は、やはり理解が深くなります。そして、自分の実験結果を他人にわかりやすく伝える練習は大変ですが、確実に自分の力になりました。
逆に、講義型の授業で習ったことは定着に結びつきづらく、「習ったことは覚えてるけど、仕事で使える気はしないなぁ…」という状態で終わりがちです。
大学生活の時間を楽しく、遊びながら暮らしたい人には電気電子工学科をおすすめできません。しかし、「せっかく大学に通うんだからなにかしら実力をつけたい」という人には強くおすすめできる環境です。
電気電子工学科は就職に強い?
強いと思います。
僕は3回生のとき、学部卒就職の人たちと一緒に就活をかじっていたことがあるのですが、新歓のときと打って変わって「電気電子工学科!?いいね!」という反応を社会人の方からされることが多かったです。
僕が思うに、理由は2つあります。
①歴史が長く、OB会が発達しているから
②電気工学をわかっている人財が求められているから
①歴史が長く、OB会が発達しているから
洛友会というOB会があります。かなり強い組織で、なんと「洛友会の歌」なんてのもあります。僕は名曲だと思います。
洛友会は就活イベントを主催したり、有力企業で働くOBとつなげてくれる機会をくれます。
普通の就活サービスを経由すると、学生が会える社会人は20代、30代がほとんどです。
当然、課長・部長クラスの偉い人に会える機会なんてそうそうありません。
ところが、洛友会が用意してくれる機会では、平然とCore30指定企業の部長クラスがきてくれ、直接話しをすることができたりします。
実際、僕自身も洛友会のイベントで某関西最大手インフラ企業の重役と食事することができたりしました。本当にいい経験でした。
工学部の他の学科ではこのような強いOB会はないようで、電気電子工学科独自の強みと言えると思います。
②電気工学をわかっている人財が求められているから
登録していた就活サービスを経由して、財閥系不動産企業からスカウトがきたことがあります。
そのメールの文面を一部引用します。
◯◯不動産株式会社 インターンシップ事務局です。
本日は、◯◯さんのプロフィールを拝見して是非お会いしたいと思い、個別にメッセージをさせていただきました。
この度、◯◯不動産では不動産デベロッパー業界をITの力で変革するをキーワードに、電気・情報系の人財の採用活動を強化しています。
そこで…
(一部、迷惑がかからないよう改変しています)
不動産企業はほとんどが文系出身のタフな社会人で構成されているイメージだったので意外でしたが、このように意外な業界から電気系の学生が欲しがられているようです。
情報系の就職が強い、というのはよく報道されていますが、実は電気系も強いと思います。
高度な情報戦を勝ち抜くためにはもちろん情報の知識が必要です。
ところが、電気電子工学科にはかなり情報工学寄りな講義も多くありますし、「情報学研究科」所属の研究室が多くありますので、情報の知識を得られる環境です。
さらに、情報基盤の高度化により電力・通信の確保が課題になるかもしれない、と指摘されています。この場合、まさに電気電子工学科の腕の見せ所です。
例年、商社や銀行など、一般に文系職だと思われている業界に電気電子工学科卒で入る人が多く、文系学部よりも選択肢の幅はかなり広がると思います。
まとめ
電気電子工学科は最高です!
入試偏差値が京大工学部の中でやや低めで、不人気だと思われがちですが、けして環境が悪いわけではありません。
これを読んだ受験生のみなさんの中で、電気電子工学科志望が増えてくれれば嬉しいです。