この記事は京都大学・大学院の合格者による個別指導塾、個別指導リジョイスの坂上先生が書きました。
私のプロフィール
こんにちは。
私は今年の3月に京都大学文学部を卒業し、現在は京都大学大学院文学研究科に籍を置く大学院生です。
「京都大学文学部とはいかなるものか?」という問いに対して、私が4年間文学部に在籍していた経験から、お話ししたいと思います。
皆さんは、「文学部」と言われるとどのようなイメージを持ちますか?
「本いっぱい読んでそう」「国語が好きそう」といった声が聞こえてきそうです。
どちらも間違ってはいませんが、文学部には高校生の皆さんがまだ見たことのないような「広さ」と「深さ」があるのです。
文学部をとらえるキーワードは「広さ」と「深さ」。
文系の人が受験を考える京大の学部としては、文学部・法学部・経済学部・教育学部・総合人間科学部があります。
文学部は、法・経済・教育に関する学問以外の文系学問をすべて受け持ちます.
学問の「広さ」に特化した総合人間学部に対して、各専門領域の「深さ」も追求する姿勢を持っています。
選べる専攻(京大文学部では「専修」と呼ばれます)の選択肢は幅広く,国語学・国文学といった「国語」の学問に加えて、日本史学・世界史(東洋史学・西洋史学)・地理学といった「社会」の学問だけではありません。
哲学・宗教学・美学美術史学・様々な外国文学・考古学・言語学・心理学・社会学・メディア文化学……などなど、この場で挙げ尽くすことはできませんが、高校では学ばない専門分野を深めていくための専修も多様に開かれています。
これらの「広い」選択肢の中から、自分の専門領域を選んで、学問をとことん「深めて」いく環境が文学部にはあります。
(研究室の分野をみてみるとかなり幅広い分野をカバーしていることがわかる。)
「勉強」と「学問」はちょっと違う
さて、特に前提なしに「学問」という言葉を使ってきましたが、「学問」とは一体どのようなものなのでしょうか。
高校生の皆さんが頑張っている「勉強」は、「学問」の土台として非常に重要なものではありますが、「学問」とは少し違う活動です。
私の考えでは、「勉強」は「先人たちによって明らかにされた知恵を学んでいく活動」であるのに対し、「学問」は「先人たちの知恵の上に立って、新しい知恵を生み出していく営為」であると考えています。
先人たちの知恵を前提としない主張は、独りよがりになってしまう可能性があります。ですので、「学問」の前提となる「勉強」は非常に大切な意味を持っています。
しかし、「勉強」だけをしていても「学問」を深めることにはなりません。ほんの少しでも、過去の人々が考えてこなかった物事について、考えてみることが重要なのです。
「学問」は意外と身近なところにも隠れている
こんなことを言われると、「学問」って難しそうだな……と思う人も多いと思います。
しかし、学問は身近なところに端を発するものでもあります。
私の研究分野
私の専門分野は「言語学」という学問で、「言葉」について考える学問です。
私が卒業研究として調査した「言葉」は、「厚み」や「丸み」に含まれる、「み」というたった1文字の言葉です。
「厚さ」と「厚み」はともに「厚い」という形容詞の名詞形と言えますが、これらにはどのような性質の違いがあるのでしょうか?
さらに、最近のインターネット上では、「うれしみ」や「眠み」というように、今まで「さ」はOKで「み」はダメだった形容詞や他の言葉にも「み」が付く様子を確認できます。どうして今までダメだった言葉にも「み」が付くようになってきているのでしょうか?
「え、そんなのが『卒業研究』になるの……?」と思った人もいるかもしれませんが、なります(私はこのテーマで2万字の卒論を書き上げ、無事卒業しました)。
大切なのは、先人たちの知恵に正しく立脚することと、適切なアプローチでその現象と向かい合うことであると言えます。
このような、私たちの身の回りの「言葉」に関する現象が「なぜ起こっているのか?」を考えるのが言語学という学問であり、その出発点は私たちが今まさに使っている「日常の言葉」なのです。
「学問」は決して、偉い学者だけのものではなく、私たちが暮らすこの世界から、すべて出発していると言えます。
文学部の学問環境
さて、そんな「学問」をする場として、文学部ではどのように学びを深めていくのでしょうか。
文学部での1~2回生
文学部では、1~2回生の間は「広く」学ぶことが求められます。
いわゆる「般教」と呼ばれる「全学共通科目」の授業を受けたり、「系共通科目」と呼ばれる、専門分野の概論の授業を受けたりします。
全学共通科目や系共通科目はバラエティに富んでおり、私も言語学の授業だけでなく、日本史や化学の授業も受けました。
少し変わった授業もあり、全学共通科目の「藻類学概論」では、生協の海藻サラダには何種類の海藻が入っているのか実際に分類してみるという活動が印象に残っています。
文学部での3~4回生
3~4回生は自分の専門分野を決め、「深く」学ぶ時期となります。
「特殊講義」や「演習」といった専門ごとの授業が開講され、その分野で一流の研究者である先生方の講義を受けたり、発表・交流をしたりすることができます。
以前受けた特殊講義では、配布資料の内容が先生の出版前の書籍のもので、「この本は秋ごろに出版されますので、流出は勘弁してくださいね」と言われるなど、今まさに研究が進んでいる分野の話を聞くこともできました。
そして4回生の終わりには、自分の研究について卒業論文をまとめ、4年間の学びを締めくくるという形になります。
日本最大級の図書館で多くの蔵書に触れあえる
また、学問環境として必ず挙げておかなければならないのは文学研究科図書館です。
その蔵書数は京大のメイン図書館である附属図書館を超え、約110万冊もの本があります。
ここまでくると、学修に必要な本で京大にない本を見つける方が難しいとも言えるほどです。
さらに、他学部の人は書庫には入れないのですが、文学部にいればこの110万冊の中を自由に歩き回ることができるのです。
その中には、江戸時代に出版された和装本などもあり、気を付けつつも手に取って読むことができます。
どこまでも続きそうな本棚の中で、ちょっとしたタイムトラベル気分を味わってみるのはいかがでしょうか?
多種多様な人が集まる文学部
さらに、文学部はそのカバー領域の「広さ」から、実に多様な学問を専門とする友達と出会うことができます。
私の友達では、1000年以上前の日本の神社について研究している人から現代日本の輸送網について研究している人、さらには近代のアメリカ文学を読みまくっている人、古代インドのサンスクリットで書かれた文献を読んで仏教について考えている人など、挙げていけばキリがありません。
また、文学部の人が集まったらする話題の一つに「最近どんな本読んだ?」というのがあるのですが、この間話した際には『古事記 現代語訳』や『イリアス』(古代ギリシャの詩作品)、果てには『電車の時刻表』という人もいました。(電車の時刻表って「読む」ものなのでしょうか?)
とにかく、文学部には本当にいろいろな学問を専門とする人がたくさんいて、いろいろな専門の話を聞くことができます。
これは他の文系学部に比べると大きく違うところだと感じます。
このように、文学部は学問の「広さ」と「深さ」の両方を兼ね備えており、様々な「広い」選択肢の中から自分の専門領域を選んで、しっかり「深く」探究していくことができる場所となっているのです。
そんな文学部の中には、多様な学問の専門家が暮らし、交流しています。
たとえるならば、様々な学問がせめぎ合いながら発展を続ける「学問の渦」ともいえる場所です。
文学部の就職先は?
文学部を卒業した後は、大体4人に1人が大学院に進学します。
文学部と接続のある文学研究科だけでなく、総合人間学部の大学院である人間・環境学研究科や、教育学部の大学院である教育学研究科に進学する人も時々いるみたいです。
大学院では自分の専門分野についてさらに学びを深め、研究活動が本格的にスタートします。
研究活動のプロである先生方から助言をもらいながら、自分で設定したテーマについて考えていくことになります。
一方で、学部4年間で就職する人も多くいます。
「文学部は就職に弱い」というイメージがあるかもしれませんが、京大文学部からはかなり多様な企業に就職している人がいる印象です。
学部生の間にいろいろな経験を積んでおくように意識しつつ、併せて自分の学問活動で得た考え方などをうまく伝えることができれば、「文学部」ということが不利に働くことは決してないと思います。
こんな人は文学部へ!
ここまで見てきたように、文学部は他の文系学部にはない「広さ」と「深さ」を兼ね備え、多様な学問が渦巻く「学問の渦」であると言えます。
その「広さ」を生かして、「文系の学問をしてみたいけど、まだ専門分野なんて言われても全然わかんない……。」という人も、自分の興味のある学問を探すことができますし、その「深さ」を生かして、「この学問を深めていきたい!」という人も、しっかりと学びを深めていける環境が用意されています。
「大学ではいろんな『学問』に出会ってみたいな」と思っている方、京大文学部はその期待に必ず応えてくれるはずです。
皆さんに、素敵な「学問との出会い」が訪れますように!