【経済学】囚人のジレンマだけじゃない!ハッとめざめるゲーム理論の奥深さ

2023年06月10日
高校生向け 受験対策/勉強法

ゲーム理論とは

ゲーム理論とは、「社会や自然界における複数主体が関わる意思決定の問題や行動の相互依存的状況を数学的なモデルを用いて研究する学問」です。簡単に言うと、いろいろな人と関わりあう中で、どういう行動をとれば自分が一番得するのか?を考えていく学問です。経済学の中で使われ始めた用語ですが、現在では政治学、生物学、のような他の学問から、経営やマーケティングなど実践的な場まで、様々なところで活用されています。

囚人のジレンマって知ってる?

「囚人のジレンマ」というのはゲーム理論におけるゲームの一種であり、簡単に言ってしまうと、自分にとって一番魅力的な選択肢を選んだ結果、協力した時よりも悪い結果を招いてしまう、という状況を表したものです。囚人のジレンマ?なにそれどういうこと??という人はこちらのサイトを参考にしてみてください!

https://note.com/scienta_est/n/n34b92c490cb1

難関校を目指す人には簡単すぎる  

しかし京都大学をはじめとする難関大学に行きたいみなさんの中には「囚人のジレンマね。はいはい。知ってる知ってる。」なんて人もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、筆者が実際に京都大学の授業で習った内容の1つをお伝えしたいと思います!

それがレモンの原理です。レモンの原理は、近年の経済学における一大トピックである「情報の非対称性」という概念を教えてくれる原理です。

情報の非対称性とは、異なる二者の間に保有する情報の格差がある状態のことです。例えば、金融市場では、一般の投資家と証券マンの間には、企業に関する重要情報を知らないか知っているかという情報の格差があります。これを情報の非対称性と言います。私は授業でレモンの原理を聞いて、「ゲーム理論おもしれぇ!」と感銘を受け、現在のゼミに所属することを決めました。囲碁、将棋、トランプ、その他ボードゲームなど、戦略を考えることが好きなあなた!数字が出てきて少し難しいかもしれませんが、頑張って読み進めてみてください。ゲーム理論の面白さの一端を垣間見ることができるはずです。

レモンの原理

どういう原理なの??

レモンの原理とは、「情報の非対称性が市場に及ぼす影響について論じたミクロ経済学の理論」です。

なぜレモンの原理と言われているかというと、アメリカでは中古車市場において、外見からはわからない欠陥車のことをレモンと呼んでいて、この原理の説明に欠陥車(レモン)が使われていたからです。レモンは厚い皮に覆われていて、外からその鮮度や品質を判断することが難しいことからそう呼ばれているそうです。それでは、実際に中古車市場の中にこの欠陥車(レモン)が交ざってしまうと何が起きるのかを見ていきたいと思うのですが、その前にモデルの設定を見ていくことにしましょう。

売り手

中古車の売り手をN人だと仮定します。また、欠陥車と優良車の売り手は同じ数だけ存在するとします。すなわち、欠陥車の売り手がN/2人優良車の売り手もN/2人です。 また、欠陥車の売り手は25万円以上優良車の売り手は50万円以上で売らないと利益が出ない(=販売コスト)とします。

買い手

欠陥車に対しては15万円しか払いたくありませんが、優良車に対しては80万円まで払ってもいいと思っています。

まとめると

 

欠陥車

優良車

売り手

2/N人

2/N人

売り手の販売コスト

25万円

50万円

買い手の支払い許容額

15万円

80万円


となります。みなさんついてこれてますか??ここまででつまらない設定の話はおしまいです。では次から実際に分析してみたいと思います。

売り手と買い手に情報の非対称性が無い場合

ここでは買い手が、売り手が売る車が欠陥車かどうかということ、そして売り手の販売コストがいくらなのかということを知っているとします。この時売り手ははどういった行動をとるのかというと、

優良車

→ 販売コスト(50万円) < 買い手の支払い許容額(80万円)

となり、50万円~80万円の間で売る

欠陥車

→ 販売コスト(25万円) > 買い手の支払い許容額(15万円)

となり、売らない

というように、優良車のみが供給され、欠陥車は供給されないという、結論が得られます。ほしいと思ったものが自分が払える値段より安ければ買う、高ければ買わない。当たり前ですよね。レモンの原理が面白いのは次からです。

売り手と買い手に情報の非対称性がある場合

情報の格差

情報の非対称性というのをここでもう一度詳しく考えてみましょう。ここでは売り手と買い手が持つ情報の違いを「中古車の性質に対する売り手と買い手が持つ情報の違い」とします。つまり、売り手は自分の商品なのでそれが欠陥車か優良車かを知っているが、買い手は少し見ただけではそれが欠陥車なのか優良車なのか判断できないという状況です。例えば、車の燃費が悪かったり、すぐに故障してしまったり、といったことは、購入する際には判断することができません。購入してしばらくたった後に気づくものです。ここで注意しておきたいのは、中古車の販売コストに関しては、買い手は理解しているものだということです。すなわち、優良車の売り手との売買は行いたいけれども、欠陥車の売り手との売買は行いたくないと思っているということです。

予想される市場のパターン

まずは、予想される市場の状況を考えてみると、

1.「すべての中古車が市場に供給される」

2.「欠陥車のみが市場に供給される」

3.「優良車が市場に供給される」

の3パターンに分類することができると分かります。みなさんはこれらのうちどの市場が成立すると思いますか?続きを読む前に、少し考えてみてください。

1.「すべての中古車が市場に供給される」

この場合、設定を思い出すと、欠陥車の売り手と優良車の売り手の人数(つまり販売される欠陥車と優良車の数)は同じなので、買った中古車が欠陥車である確率と、優良車である確率はそれぞれ1/2です。このとき、買い手の中古車に対する合理的な支払い許容額

1/2×80万円 + 1/2×15万円 = 47.5万円 となります。

ここで、買い手は市場がどうなるか、つまり売り手はどういった行動をとるのかについての予想をします。

優良車の売り手

→販売コスト(50万円) > 買い手の支払い許容額(47.5万円)

となり、売らない。

欠陥車の売り手

→販売コスト(15万円) < 買い手の支払い許容額(47.5万円)

となり、売る。

という風に買い手は予想ができます。

つまり、この状況では優良車の売り手は車を売らないので、

「すべての中古車が市場に供給される」という予想は成立しないということができます。

ここが少し難しいのですが、わけがわからなくなった人は背理法と同じように考えてみてください。

「すべての中古車が市場に供給される」という仮定をしたときに、「優良車の売り手は売らない」つまり「中古車のうち市場に供給されるのは欠陥車のみ」となるので、「すべての中古車が市場に供給される」という仮定は間違いであった、ということです。

2.「欠陥車のみが市場に供給される」

と仮定した場合はどうでしょうか?

この場合の買い手の支払い許容額は15万円です。 このとき、欠陥車も優良車も販売コストが15万円よりも上回っているので成立しない、という考え方でOKです。式を使って詳しく分析すると以下のようになります。

優良車の売り手

→販売コスト 50万円 > 買い手の支払い許容額15万円 

となり、売らない

欠陥車の売り手

→販売コスト 25万円 > 買い手の支払い許容額15万円

となり、売らない

つまり、欠陥車の売り手も優良車の売り手も売らない、と買い手は予想でき、 「欠陥車のみが市場に供給される」という予想は成立しないということができます。

3.「優良車のみが市場に供給される」

いよいよ核心に迫ってまいりました。 情報の非対称性が存在しない場合は、優良車のみが供給され、欠陥車は供給されないという結論に至りましたが、情報の非対称性が存在する場合はどうなるのでしょうか?

この場合、買い手の支払い許容額は80万円です。

この場合、

優良車の売り手

→販売コスト 50万円 < 買い手の支払い許容額80万円

となり、売る

欠陥車の売り手

→販売コスト 25万円 < 買い手の支払い許容額80万円

となり、売る!!!

つまり、優良車の売り手も欠陥車の売り手も車を売るので、

「優良車のみが市場に供給される」という予想も成立しません

何が起きたのかというと、買い手が欠陥車を見分ける術がないことを利用した欠陥車の売り手が、自分の商品が優良車であるかのようなふりをして市場に参戦してくるのです!

1,2,3から得られる結論

1,2,3より、情報の非対称性が存在する世界では「欠陥車も優良車も供給されない(市場が成立しない)」という風に結論付けることができます。つまり欠陥車(レモン)が優良車を市場から駆逐してしまうのです。

このように、情報の非対称性が存在する場合、欠陥車(レモン)のせいで、本来成立するはずだった優良車の売買までもが行なわれなくなってしまい、経済に悪影響を及ぼします

これがレモンの原理です。ちなみにこの理論の提唱者、ジョージ・アカロフはこの理論を発見した功績を称えられ、ノーベル経済学賞を授与されています。

まとめ

このレモンの原理が発表されてから、経済学では情報の非対称性についての研究が進み、それに伴ってゲーム理論も大いに発展してきました。ゲーム理論では、他のどういった場面で情報の非対称性が影響を与えているのか、情報の非対称性をなくすにはどうしたらいいのか、相手を信用させるにはどうすればよいのか、それらの研究をどのようにして実際の問題と結びつけるのか、など様々な問題について研究が進んでいます。

このように、ゲーム理論では「情報」が鍵となる研究がとても多いと言えます。情報を制する者が世の中を制するといっても過言ではないでしょう。京大についての「情報」が知りたい人は他の記事もぜひチェックしてみてください!